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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)173号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決取消事由について検討する。

1 取消事由(1)について

成立に争いのない甲第二号証の一ないし三によると、本願明細書には、従来技術の問題点として、「……頭部全超硬合金形式のルーパーは、……化学繊維を切つても長期の使用に耐える反面、頭部が超硬合金製のため運転中にナイフとの圧接摺動によつて発生する摩擦熱によつて高熱状態に持続され、熱に弱い合繊フイラメントパイル等を切ると、切断されたパイルの先端に熱融着現象を生じて、パイルの外観、風合を著しく損なう……等の欠点があり……」との記載(甲第二号証の二、四頁七行ないし五頁三行)があり、次いで、「本発明ルーパーは、……熱伝導率の悪い超硬合金等の高硬度材板状刃体を熱伝導率の良い鋼鉄製基体に張設したことによるバイメタル構造によつて、高速運転時の刃体表面に発生するナイフとの摩擦熱を背面の鋼鉄板に伝承放散して熱の蓄積を防ぐので、合成繊維フイラメント糸をパイル糸に用いて高速運転しても……パイル先端で各フイラメント間に熱融着(M)を生ずることなく、……均斉で美しい切断端からなるパイルが得られる。」と記載(同八頁一四行ないし九頁一二行)され、また、本願発明の実施例に関する記述中には、「、刃体(18)に使用される超硬合金とルーバー基体に使用される鋼鉄との熱伝導率はJIS規格からも明らかなように、前者が〇・〇一~〇・〇七(Cal/cm℃sec)で後者が〇・〇九~〇・一四(Cal/cm℃sec)である。」(同七頁一七行ないし二〇行)と記載されていることが認められる。

しかしながら、成立に争いのない乙第一号証(日本金属学会編「金属便覧」丸善株式会社昭和四〇年発行五〇八頁ないし五一五頁)によると、工業的に生産され広く実用されている超硬合金の代表的なものとしてWC―CO系、WC―TiC―Co系などがあるが、WC―Co系合金が超硬合金としては最も簡単に製造することができ最も普通に用いられるものであり、その熱伝導率は、WC―Co系については〇・一六~〇・一九(Cal/cm・sec℃)(同号証に「Cal/cm℃」とあるのは「Cal/cm・sec℃」の誤記と認められる。)、WC―TiC―Co系については〇・一九~〇・一五(Cal/cm・sec℃)であること、このようなことは本願出願前当業者において周知であつたことが認められる。

右認定の事実を前提に前記明細書の記載を見ると、超硬合金として極めて普通に用いられるものの中には、本願発明で用いられる鋼鉄の熱伝導率よりも高いもの(良好なもの)が多く存するのであるから、本願発明においてこのような超硬合金を鋼鉄製基体に張設した場合にはこれによつて摩擦熱を鋼鉄板に伝承放散し熱の蓄積を防ぐことができないことは明らかである。

しかるに、当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲には、「超硬合金等の高硬度材」及び「鋼鉄板」とのみ記載されているだけで、熱伝導率の見地からこれを限定した記載はない。また、前掲甲第二号証の一ないし三によると、前記認定の本願発明における発熱に関する技術的課題及びその効果に関する記載は出願当初の明細書には記載がなく、その後の手続補正書によつて新たに加えられた事項であることが認められるので、本願発明における「超硬合金等の高硬度材」及び「鋼鉄板」について、熱伝導率の見地から一定の限定を付して解釈すべきでないことが明らかである。

そうすると、前記本願明細書記載の実施例は特に限定された超硬合金を使用した例を示したに過ぎず、本願発明は熱伝導率の悪い超硬合金の板状刃体を熱伝導率の良い鋼鉄製基体に張設したことにその主要な特徴があるとすることはできない。従つて、このことを前提とする原告主張の取消事由(1)は理由がない。

2 取消事由(2)について

前掲本願発明の特許請求の範囲によると、本願発明は、下向剣先部(16)の内向縁にも超硬合金等の高硬度材製板状刃体(18)を嵌入張設することを要件とするものであり、前掲甲第二号証の一ないし三によれば、右下向剣先部の内向縁は、パイル糸を引掛けるのみであつて、パイル糸の切断作用には関与しない部分であることが認められる。

しかし、審決認定のとおり第一引用例には「垂直部上部と水平部と下向剣先部を超硬合金で形成し、それぞれの内向縁を刃体とした」ルーパーが記載されていることは原告の認めるところであり、「垂直部、水平部、下向剣先部の内向縁によつて形成される刃体部を超硬合金で形成した」点で本願発明と第一引用例記載のルーパーは一致するとした審決の認定も原告は争つていない。また、本願明細書に従来技術として説明されている前記頭部全超硬合金形式のルーパーは、前掲甲第二号証の二(特に同証の図面第3図)によれば、第一引用例のものと右の点において同一の構成であることが認められる。

そうすると、切断作用に関与しない下向剣先部の内向縁に超硬合金等の高硬度材を適用することは本願出願前公知であつたといわなければならないから、これが公知でなかつたことを前提とする原告の取消事由(2)は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。

3 取消事由(3)について

(一) 本願発明におけるルーパーの下向剣先部の内向縁にも超硬合金等の高硬度材製板状刃体を嵌入張設したことによる効果は、前記本願出願前公知の第一引用例記載のもの及び本願明細書記載の頭部全超硬合金形式のルーパーの奏する効果と異なるところはない。従つて原告主張の(1)の効果は本願発明に特有の効果ではない。

(二) 本願発明における「超硬合金等の高硬度材」の熱伝導率が「鋼鉄板」のそれに比して低いものに限定されるものでないことは、前記1に判示したところによつて明らかである。従つて原告主張の(2)の効果は、本願発明を右のように限定して実施した場合にのみ生ずる効果に過ぎない。

(三) 第二引用例に審決認定のとおりの記載があることは当事者間に争いがなく、前掲甲第四号証によると右引用例のものも超硬合金が鋼鉄等によつて裏打ちされたものであることが認められる。そうすると、本願発明と第二引用例のものとは右の点で構成上差異がないから、原告主張の(3)の効果のうち曲げ応力に対して十分耐えられる点は本願発明に特有のものということはできないし、その余の点は刃体を断面かぎ形切欠部に嵌入張設した構成から当然予測される効果に過ぎない。

(四) 従つて、審決が本願発明の作用効果も当業者が容易に予測し得るところであると認定した点に誤りはなく、取消事由(3)は理由がない。

三 以上のとおりであるから、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

(一) 取付部(12)と、該取付部(12)の先方に設けた垂直部(14)と、該垂直部(14)上部から水平方向に延出する水平部(15)と、該水平部(15)の先端に設けた下向剣先部(16)とからなる鋼鉄製のルーパー基体(11)の垂直部(14)と水平部(15)と下向剣先部(16)とのそれぞれ内向縁に、連続する一個の断面かぎ形切欠部(17)をナイフ摺接面側に設け、該切欠部にそれと同形状の超硬合金等の高硬度材製板状刃体(18)を嵌入張設して、刃体部をナイフ摺接面が超硬合金板で裏面が鋼鉄板の貼合せ構造としたタフテイングマシンにおけるルーパー。

(二) 超硬合金等高硬度材製刃体(18)張設面の裏側縁部をJカツト防止用にテーパー切削した第一項記載のルーパー。(別紙(一)図面参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙(一)

<省略>

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